信濃國【諏訪】国津神の祈り — 胎動の地、静かに満ちぬ

諏訪|国家の基を支える、国津神の祈り宿る地

🪶 いにしえの道しるべ
信濃國・諏訪は、縄文の霊性とヤマトの秩序が交わり、国津神の祈りが息づいた地です。
水眼(すいが)の湧く豊饒の大地に、ミシャグジ神と洩矢神の祈りが重なり、大祝の座にて国家の祀りへと昇華しました。
そこには、大国主の皇子・建御名方命の霊威が鎮まり、龍神と八百万の神々が交錯する舞台が広がっています。
風は語り、石は記憶を抱き、龍は胎動の刻を告げる――
諏訪の祈りは、いまもなお日本国家の基を静かに支えているのです。

序章|水眼に息づく祈りの都

静けき胎動の刻(とき)ー “いにしえ”の八百万の神々の物語。
かの地は、ヤマトの國の奥つ方、水眼(すいが)湧き出でる縄文の地ーー

八百万の神々を地に結びとめし在地の神、それを護り伝えし洩矢(もりや)の祈り。
そこには、大国主大神の皇子――封ぜられしヤマトの龍の霊威が吹き渡っているのです。

自然の神々と龍の息吹が交錯する十間廊。風が語り、石が記憶を抱き、龍が嘶(いなな)く。いま、その気配が現神となって、御力を磨きはじめています。

――これぞ、八百万の神々と、洩矢神、大地に息づく霊性の物語なり。洩れいでたまわる、龍の息吹が、いま再びその御姿を顕さんとしているのです。


第一章|天なる龍の言霊にいざなわれ、縄文の祈り、いま旅立たん —

遥かいにしえの昔、三河の地に、自然の恵みに祈りを捧げながら、野山を行きめぐり、日々の命を紡ぐ人々がいました。

縄文の大地とともに土を耕し、水を汲み、火を使い、風に耳を澄まし、慎ましく、されど豊かに暮らしていたのです。

されど、民どもは、さらなる幸わいの地を夢見て、旅に出でました。

「天なる龍の川を遡ったその先に、幸わいなる地ぞあり」

――大地より、龍の言霊が静かに響いたのです。

目指したのは、天を駆ける龍の如く、遥かなる山々の奥つ方より、うねり流るる大河。鹿の毛皮をまとい、矢じりを腰にした縄文の民は、おもむろに立ち上がりました。

「者ども、続けよ――」

口笛の合図とともに、人々は静かにその地を後にします。幾代もの歳月を経て、旅の民は少しずつ、天の龍の背を這うように進み、急な峠を越え、深き谷を渡りながら――
ついに天龍の頭(かしら)なる水眼(すいが)なる地に辿り着いたのです。

第二章|黒曜の祈り、龍なる大地の息吹

かの地は、山深く緑茂り、清き水眼湧き出で、八百万の神々が、龍なる命とともに、静かに息づいていました。

民どもは、豊穣の恵みに祈りを捧げつつ、縄文の庵を築き、天地(あめつち)とともに命の営みを紡ぎはじめたのです。

かつて火を噴きし龍なる八ヶ岳も、すでに鎮まり、その大地よりは、黒く輝く硬き石――黒曜石がもたらされました。
それは矢じりとなり、畑を耕す刃ともなり、まさに命の営みを支える“龍神の石”だったのです。

やがて、この黒き石の噂は、遥かなる地にも届き、人びとは大海のものと交わり、広き世へとつながっていきました。

「これも、八百万の神々――大地を育みし龍神、蛇神さまのおかげじゃ」

かくして、この地は、八百万の神々が棲まう、命みちあふる縄文のまほろばとなったのです。

民どもは、風の神、火の神、水の神、石の神、そして大地に眠る龍なる神々へ、ありがたき祈りを捧げるようになりました。
その神々は、いつしかミシャグジ(御左口)と呼ばれるようになったのです。

かの神は、蛇の化身として、またあるときは縄文の依代たる大樹となりて、
大地の奥深くに鎮まり、静けき命を、とこしへに育みつづけました。

そのとき、龍なる風がひとすじ――
古き神の名を運ぶように、静かに吹き抜けたのです。

第三章|龍なる神の矢、縄文の祈りを結ぶ

民どもは、八百万の神々に日々、深く祈りを捧げていました。その祈りの座には、守矢なる氏(うじ)の姿もありました。彼(か)の者は、出雲より伝わりし“鉄”の威を奉じていたのです。

やがて、いにしえの神を祀る物部氏と深く交わり、八百万の神々の霊威を仰ぎ受けました。かくして、縄文の大いなる恵みの地に、身を委ねんとしたのです。

ある日、かの者のもとに、遥か山の奥つ方より、一本の神矢が飛び来たりました。それは、大地に棲まうミシャグジ神が放り給うた、龍なる遣いの矢だったのです。

その洩れ矢は、神なる結界を超え、守矢の氏に神託をもたらしました。
夢現(ゆめうつつ)のなかに、龍姿なるミシャグジ神が現れ、かく告げたのです。

我をこの地に祀り給え。
鉄(くろがね)の御座(みくら)に我が身を据えよ。
かくありて、八百万の神々の恵みを、縄文の民とともに、護り伝へ継ぐがよい――。

そこで守矢氏なる者は、龍なる神のお告げを胸に刻み、鉄鐸(てったく)の威をもってミシャグジ神を鎮め祀ったのです。

かくして神の命を受けし守矢氏は、「洩矢神(もりやのかみ)」と称され、ミシャグジ神の言霊を民に伝える巫(かんなぎ)、祝部(はふりべ)となりました。

やがて冬の折り、洩矢神は“御室社”の祈りの場に身を沈め、大地の恵みを祈る“穴巣始め”(あなすはじめ)を執り行ったと申します。

八百万の神々への祈りは、大地に根差す縄文の民の暮らしとひとつに結ばれ、静けき命の営みとして、この地に深く息づいていったのです。

こうして、龍神の御かげは大地に満ち、民は縄文の神々の恵みを日々の糧とし、
水眼(すいが)の命を育んでいきました。

第四章|藤蔓の結界、国津の祀り鎮まる

幾代年月を過ぎし頃、この縄文の地に、出雲の国より国津の神が降りてきました。その名は、建御名方命(たけみなかたのみこと)と申します。

彼(か)の大神は、大国主命の御子。葦原中国の武威に神気をまとい、出雲にて国を譲りしのち、この地へと舞い降りたのです。

その神威は、ミシャグジ神の魂をも包み込む、大いなる鎮めと、祝(はふり)の霊威を帯びていました。

大祝(おおほうり)なる神は、たちまちのうちに、国津の霊威を帯びし藤の蔓にて、洩矢神の鉄鐸(てったく)をからめとってしまったのです。

藤の蔓は、まるで結界のごとく、枝葉を四方に張り巡らし、
国津の神威の中におほひ込みて、静かに結び鎮めました。

我、かの国津の地にありて、相携へて、大いなる祝いをもたらさんとす

山々に鎮まり伝わりしその言霊に、八百万なる森羅の神々は、その身をゆるがせたのです。縄文の地を護る洩矢神(もりやのかみ)は、大きく頷きました。

かくして、建御名方命は大祝(おおほうり)となり、祀りの御業(みわざ)もて、国津神の祈り満ちる地に、静かに鎮まり座したのです。

第五章|御柱に託された縄文の祈り、龍気とともに甦る

かくして、大祝は現人神(あらひとがみ)として八百万の神々を祀り、静かにその座に鎮まりました。
洩矢神(もりやのかみ)は、ミシャグジの神託を伝える者として、その傍らに立ち、縄文の祈りを幾重にも重ねていったのです。

やがて、八百万の祈りは響きあい、久遠の時を越えて、縄文のしるしを宿す大地を、深く揺り動かしました。
その折り、遥かなる山々より、龍なる神々の言霊が呼び覚まされたのです。

縄文の依代たる大樹を立てよ。
これを以ちて、この地の神々への八百万の誓ひとせよ――。

我、縄文の龍として再び目覚めん。
かくなりて、この国の豊穣の礎とならん。

いにしえの言霊の響くなか、民どもは、上下隔てなくミシャグジ神の御前に並び立ち、山の大樹を切り出しました。
このとき、縄文の大地は揺さぶられ、御山の木霊は霊威となりて、この地に鎮まり座したのです。

かの折、ミシャグジ神の龍気は、奥つ方より吹き上がり、御霊を震わせつつ大地を潤したと申します。
八百万の神々の祈りと、生きとし生けるものの魂(たま)は、縄文のいにしえの言霊とともに、静かに鎮まりました。

かくして、その息吹は大地の龍と重なり、この地に深く刻まれていったのです。

第六章|御柱に宿る縄文の祈りと、龍の記憶

月日は流れ、大祝氏は現人神(あらひとがみ)なりて、日ごとにその御威(みゐ)は増していきました。そしていつのころか—、大地の蘇りを祈る「穴巣始(あなすはじめ)の儀」は、執り行われなくなったのです。
かつて、洩れ矢を放ちて大地に神託を授けし神々の力は、疎まれ、ついぞいにしえの彼方に消えゆきました。

ついに世は乱れーー
武士どもの争いがこの地を覆いはじめると、大祝の氏もまた、かの争いに巻き込まれていったのです。かくして、世の理は崩れゆくなか、ついぞ信長なる者の手により、その命運は絶たれました。

神の名を借り、祝なる力に酔ひしれ、八百万の祈りを疎みしものは、
つひに世の理に呑まれ、龍のごとく崩れ落ちたのです。
——その有様、ミシャグジの神は、ただ静かに、遥かなる国津の地より見通しておられました。

大地の龍を疎むもの、これ滅ぶは、まことに世の理(ことわり)なり。

されど、守矢の氏は、ただひたすらにミシャグジの神を司り、龍心の祈りを伝え継いでいたのです。そして、今に至るもなお、御柱によりて大地の龍なる魂は磨かれ続けています。ミシャグジの神威を更に顕(あらは)し続けているのです。

己らよ、土地の神に祈りて、ふたたび務めを思ひ出すべし。

📜諏訪之巻、了

📖 結びの道しるべ|信濃国 諏訪編
  • 諏訪は、八百万の恵みを結び、水眼(すいが)湧き出づる縄文の大地。
  • 大地の恵みである黒曜石は命の営みを支え、祈りを大海へと結び広げた。
  • ミシャグジ神と洩矢神の祈りは、大祝と重なり国家の祀りへ昇華した。
  • 御柱は、縄文の祈りと龍なる魂を大地に繋ぎ止める依代となった。
  • いまも御柱祭は『国家OSの記憶装置』として、縄文の魂を呼び覚まし続けている。

🗺️ 現地の手がかり:諏訪(長野県中部)
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諏訪は、国津神と天津神を結ぶ二重構造を担い、御柱祭のたびに縄文の記憶を呼び覚ます「国家OSの記憶装置」として息づいている。

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