信濃國【戸隠】八百万の神々、龍と成りてー国家の基に息をなす

戸隠|九頭龍、封じの刀にして、八百万の神々のまなざし棲む
ヤマトの国がいまだ海に沈みし頃より、龍の息吹はこの山に宿り、天地を創りし神々とともに時を刻んできたのです。
されど世が乱れ、民のまごころが揺らぐとき、九頭龍は封じを破り、鬼どもを従えて世に姿を現しました。
されど、役目を終えし後は、山の奥つ方深に還り、民は安堵の祈りを魂(たま)に刻んだと申します。
封じられし九頭龍はいまも静かに眠り、戸隠は“国家の基”を支える封印の地として息づいているのです。
第一章|龍、眠れる大海より — 八百万の息吹、山と成りて
遥かなる昔、この地はいまだ大海の底にありました。八百万の神々は、その深き場所にて、静かなる命の眠りについていたのです。
されど古(いにしえ)の神なる魂(たま)は、時を経て九頭の龍(くずのりゅう)と成り、天を衝くうねりとなって、この地に降り立ちました。
その神威はやがて、鱗連なる山の背として姿をあらわし、慈しみのまなざしをもって在地の民に幸い(さきわい)を授けたのです。
春の雪解けには山はやわらかき息を吐き、秋の静けき夜には、かすかな龍のうねりが谷を撫でてゆきます。
その息吹は、遥かなる大海の記憶を伝え、人々の心を潤してきました。
かの高き峰は、いにしえを超えて、神々の魂(たま)のまなざしが今なお降り注ぐ、“やすらぎの座”となったのです。

第二章|天照、隠れしとき—龍、闇を畏れ、磐戸を開く
やがて、さらなる時を経て、天より天照の神がこの地に降り立ちました。かの神は、大いなる陽をもって地上を照らしていたのです。
されど、ここに棲まう神々は、その眩しきを良しとしませんでした。
かくして天照の神は、岩戸へと姿を隠し、光を失った世は、暗き混沌に包まれたのです。
世を乱していた九頭龍の神々は、その深き闇に畏れ、戦(おのの)きました。
秩序なき混沌の闇——そこに陽が照らされることを、神々は願ったのです。
陰闇のみは悪しきなり、陽また必要とす——。
八百万の神々は岩戸を開き、天を仰ぎ、再び天照の神を迎えました。
この地を“戸隠”と定め、その御力(みぢから)に従うことを選んだのです。
時代は下り、天武なる者は、龍頭より湧き出でる鬼どもを鎮めました。
そして、陽なる地・鬼無里にて、霊なる龍刃を國の理(ことわり)の中に封じたのです。

第三章|“九頭龍”、封ぜられし龍の刃
平安の世となり、源氏と平氏――都にて勢のうねり交わり、朝廷の理(ことわり)もまた、乱れ始めました。かくて御鞘(みさや)の鍔もまた、その封じ口を静かに緩めはじめたのです。
やがて、源氏の流れを汲むひとりの女がこの地に流れ着きました。その名を紅葉(もみじ)と申します。
都の文化を伝える者にして、龍の神気をその身に纏っていました。やがてこの者が、乱れし世を憂いたとき、静かに九頭龍の気配が立ち昇ったのです。
すると太古より封ぜられし銀の龍刃が幻のごとく目覚め、その神気に呼び出され、鬼どもは姿を現しました。
「汝ら、何をぞ乱す――」
いにしえの静けさより、龍はふたたび目覚め、鬼たちはこの世に現れたのです。

第四章|封じられし刃、紅葉の安堵と九頭龍の言霊
やがて源氏の者は退き、国の理(ことわり)もまた、天照神の御道へと還りゆきました。乱れし世の余燼(よじん)が鎮まるにつれ、鬼どももまた、その勢いを弱めていったのです。
紅葉も、平氏の軍勢に追われ、討たれました。されど、その面持ちには、どこか安堵の気配が漂っていたと申します。
その御首は神気に満ち、あまりに重く、ついに都へ運び奉ることはできませんでした。土地の民は、それを手厚く奉り、地の塚へと納めたのです。
鬼どももまた、いにしえの九頭龍、鎮まりの地へと還っていきました。龍なる霊刃はふたたび皇(きさらぎ)の御鞘に納められたのです。
かくして九頭龍は大いなる八百万の瞳を閉じ、深き眠りにつきました。
戸隠は、国の理に組み込まれし鬼どもの封じ口——。
八百万の神々、九頭龍となりて静かに納まり、国の基(もとい)を深き魂より支えているのです。
されど、国が乱れ、民が心の理(ことわり)を見失うとき、その封じ口はふたたび解かれるなり —
今もなお、戸隠の山々に降り立ち、遥かいにしえの奥つ方を仰ぎ見れば、九頭龍の言霊がかすかに漂い渡りてくるのです。
者どもよ、我ら再び姿を現さんとす――。

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