日本国家OS|統合原理 ― 幽事と顕事:国家基盤の二重構造

統合原理|日本国家OS
顕露之事と神事・幽事を、異なる領域へ位置づける『日本書紀』第九段一書第二では、大己貴神が治めていた「顕露之事」を皇孫が治め、大己貴神は「神事・幽事」を治めるという分け方が示されています。ここで注目するのは、大国主が国を譲った後も、以前とは異なる領域に位置を持つことです。顕露之事を担う位置が皇孫側へ置かれる一方、大己貴神は神事・幽事を担う位置に置かれます。

Ⅰ|『日本書紀』一書第二に見える、顕露之事と幽事

国譲りには複数の伝承があります。その中でも『日本書紀』第九段一書第二には、大己貴神が治めていた事柄をどのように分けるのかが明確に記されています。

顕露之事大己貴神が治めてきた顕露之事を、皇孫が治めるとされます。顕露之事は、統治や政治として表に現れる領域を考える手がかりになります。
神事・幽事大己貴神が退いて治めるとされる領域です。神々や祭祀に関わる事柄など、顕露之事とは異なる領域として語られます。

史料上まず確認できるのは、顕露之事を皇孫が担い、神事・幽事を大己貴神が担うという配置です。この分け方から、先行する中心が担っていた働きが異なる領域へ分けて位置づけられる構造が見えてきます。

史料ごとの差を分けて読む「顕露之事」と「神事・幽事」の分け方が明瞭に現れるのは、とくに『日本書紀』第九段一書第二です。『古事記』の国譲りには、大国主が「幽事を治める」という同じ形の明記はありません。国譲り伝承を一つの形にまとめず、それぞれの史料がどのような関係を語っているのかを区別します。

Ⅱ|国譲りの後、大国主は何を担うのか

国譲りを読むときは、大国主がその後どの領域に位置を持ったのかを見ます。『日本書紀』一書第二では、顕露之事を担う位置と、神事・幽事を担う位置が分けられています。

顕露之事皇孫が治める位置へ置かれる。神事・幽事大己貴神が治める別の領域として位置づけられる。

大国主の位置は、国譲り以前と同じではなく、神事・幽事を担う別の領域へ移ります。そこで、顕露之事を担う皇孫とは異なる位置に、現在的な働きを持つ存在として位置づけられます。

この配置を見ることで、国譲り後の大国主を「残ったか、消えたか」だけで捉えるのではなく、その後何として、どの位置に置かれたのかを具体的に考えることができます。

Ⅲ|出雲側では、大国主の位置が別の形で語られる

『日本書紀』一書第二に示された配置とあわせて出雲側の史料を見ると、大国主・大穴持命の位置は、土地、神威、祭祀主体という別の側面からも見えてきます。

土地『出雲国風土記』では、大穴持命が「所造天下大神」と呼ばれ、出雲各地の土地に関わる大神として繰り返し語られます。
神威『出雲国造神賀詞』では、大穴持命自身が杵築に鎮まり、その和魂や子神が大和側にも配置され、皇孫を守る関係として語られます。
祭祀主体出雲国造が出雲側の祭祀を担いながら、宮廷へ出て神賀詞を奏上し、土地側の祭祀と広域秩序との関係にも関わります。

これらは異なる史料と文脈に現れるため、それぞれを分けて確認します。そのうえで重ねて見ると、顕露之事を担う位置が皇孫側へ置かれる一方、大国主・大穴持命に関わる土地、神威、祭祀主体が別の位置に置かれていることを考える材料になります。

Ⅳ|幽事と顕事 ― 異なる領域を読む補助線

『村の履歴書』では、幽事と顕事を、神々や祭祀、祈りなどに関わる領域と、統治や制度、役割など表に現れる領域の配置を読むための補助線として用います。

この補助線を使うことで、政治や制度として表に現れる秩序だけでなく、その背後で神々、祭祀、土地との関係がどのような位置を持っているのかを分けて見ることができます。

OSとの対応は固定しない「幽事=祈りOS」「顕事=国家OS」「出雲=幽事」「大和=顕事」と固定的に対応させるものではありません。一つの地域や一つの社会OSにも、祭祀、制度、統治、暮らしなど複数の領域が重なります。

幽事と顕事から見えてくるのは、『日本書紀』一書第二において、先行する中心が担っていた働きが分けられ、異なる領域へ位置づけ直されていることです。

Ⅴ|国家OSから見る、幽事と顕事

国家OSでは、異なる地域秩序が地域を越える関係へ接続される中で、先行する地域中心や祭祀主体の位置、役割、関係が組み替わることがあります。

『日本書紀』一書第二では、顕露之事を皇孫側が担い、神事・幽事を大己貴神が担うという配置が示されます。顕露之事を統治や政治として表に現れる領域を読む手がかりとすると、この配置から、先行する中心の働きが異なる領域へ分けて位置づけられる関係が見えてきます。

幽事と顕事|『村の履歴書』の読み方『日本書紀』第九段一書第二では、顕露之事を皇孫側へ、神事・幽事を大己貴神へと分けて位置づけています。国家OSでは、この分け方を、先行する中心の働きが別の領域に位置を持ちながら、地域を越える秩序の中で関係を組み替えられる一つの表現として読みます。

Ⅵ|旧中心は、どんな役割を担い、どの位置に残ったのか

中国や朝鮮にも、旧王統、祖先祭祀、地域神、地域祭祀が、新しい国家秩序の中に位置を持つ例があります。そのため、古い中心や地域祭祀が残ったという事実だけでは、日本の特徴を捉えることはできません。

そこで比較するときは、接続後に旧中心がどの位置に置かれ、どんな役割を担ったのかを分けて見ます。『日本書紀』一書第二では、大己貴神が神事・幽事を担う位置に置かれます。出雲側の史料では、大穴持命自身、神威、祭祀主体が、それぞれ異なる位置から広域秩序との関係を持ちます。

国譲りから読む比較軸顕露之事は誰が担ったのか。土地との関係はどこに残ったのか。神威はどこへ向けられたのか。祭祀は誰が担ったのか。先行する中心が、その後どの領域でどんな働きを持ったのかを分けて読みます。

幽事と顕事は、こうした配置を考える一つの手がかりです。先行する中心が広域秩序との接続後にどの位置を持ち、何を担ったのかを見ることで、地域と広域の関係を「残ったか、消えたか」だけでは捉えない国家OSの読み方につながります。

※本記事で用いる用語・構造定義は、こちらを参照。

関連する統合原理
▶ 土地側の基盤と地域を越える共有・調整の関係は、国津と天津から、土地と広域の接続を読むをご覧ください。
▶ 地域を越えて共有されるものが土地の既存秩序と接続する過程は、透過秩序としての統合をご覧ください。
▶ 国譲りそのものの接続と再編は、国譲りの統合原理をご覧ください。
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