AI時代を、人の居場所から読む

特集|AI時代

AI時代、「生きてるだけで偉い」は本当なのか― 役に立たなくても、ここにいてよい理由 ―

AIがさまざまな仕事をこなせるようになった今、能力やスキルだけで人の価値を決めてよいのでしょうか。文章を書き、調べ、まとめ、相談にも応じるAIを前にすると、これまで人を支えてきた仕事や役割の意味も揺らぎ始めます。けれど、「生きてるだけで偉い」と言われても、どこかすんなり受け取れません。この言葉は励ましである一方で、人を「偉い/偉くない」と評価する響きも残っているからです。本当に問いたいのは、生きていることが偉いのかどうかではありません。人は、役に立ってはじめて、ここにいてよいのでしょうか。成果を出し、誰かに認められてから、居場所を得るのでしょうか。これは、AIによって、もともと社会の中にあった、「人は、何ができるか、どれだけ役に立つかによって評価される」という見方が、露わになってきたものとも言えます。仕事や家庭、地域の中で役割を果たし、成果を出し、人から認められて、ようやく一人前として扱われる。そうしたことが当たり前になると、役割を失うことが、そのまま居場所まで失うことにつながってしまいます。
▶ 居場所は、役割より先にある役割を果たすことは、そもそも居場所を得るための資格や条件だったのでしょうか。もしかすると、私たちは、居場所を探しているつもりでも、実は、自分が役に立てる場所を探してきたのかもしれません。けれど、居場所は、まずその人がそこにいることが受け止められ、自然や土地、周囲の人との関係が生まれるところから始まります。その関係の中に居場所が育ち、そこから、その人なりの働きや役割が生まれていくのではないでしょうか。
YouTube第1シリーズ|制作中AI時代に人は何を支えに生きるのか― 土地と暮らしから、心の居場所を考える ―AIがさまざまな仕事をこなせるようになった今、能力やスキルだけで人の価値を決めてよいのでしょうか。このシリーズでは、「居場所は、役割より先にある」という考えを、仕事、人とのつながり、土地、文化、祈り、AIとの対話から、一話ずつたどります。▶ YouTube第1シリーズを読む

1|居場所は、役割のあとに生まれるのか

私たちは、仕事や肩書きから相手を見たり、自分が社会の中でどのような位置にいるのかを確かめたりすることがあります。たとえば、仕事に就いていないというだけで、どこか引け目を感じてしまうことがあります。

今の社会で起きやすい順序会社や組織に入る

役割を持つ

成果を出す

人から認められる

居場所を得る
居場所が育つ順序まず、その人がそこにいることが受け止められる

自然や土地、周囲の人との関係が生まれる

居場所が育つ

その人なりの働きが生まれる

役割として形になる

役割を持ち、成果を出し、人から認められてから居場所を得るという順序で考えると、以前ほど役に立てなくなったと感じるだけでも、自分の立ち位置は揺らぎ始めます。さらに、仕事や役割を失えば、自分の価値や居場所まで失ったように感じてしまいます。村の履歴書では、まずその人がそこにいることが受け止められ、関係の中に居場所が育ち、そこからその人なりの働きや役割が生まれると考えます。これが、人の居場所を考える基本の順序です。

ここでいう居場所とは、役割を持つことを条件に与えられるものではなく、自然や土地、周囲の人との関係の中に、その人が無理なくいられる位置がある状態です。
たとえば、キャンプなら仲間とキャンプへ行くとき、火起こしや料理ができることを、参加するための条件にはしません。まず同じ場所に集まり、腰を下ろし、共に過ごします。その中で、誰かが火を起こし、誰かが薪を運び、誰かが料理をすることもあります。何もせず、ただ一緒に火を囲む時間があってもよいのです。役割は、その場に入るための条件ではありません。同じ場所で過ごす中で関係が生まれ、そこから必要に応じて役割が生まれてくるものです。

居場所は、会社や地域に所属しているというだけで生まれるものではありません。年齢や体調、仕事、暮らす土地、関わる人が変われば、その人の位置も変わります。居場所は、一度見つけて終わるものではなく、関係の中で何度でも結び直されていくものです。

人が仕事や役割を失うと、「自分を生かせる新しい居場所を探すことが大切だ」と言われることがあります。その候補として、新しい仕事や趣味の集まり、地域活動、ボランティア、コミュニティなどが挙げられます。もちろん、そうした場に加わることで、人と出会い、暮らしが広がることもあります。ただ、そこで再び、「何ができるか」「どう役に立てるか」「どの役を担えるか」が問われるのであれば、居場所を探しているつもりでも、いつの間にか新しい役割を探すことになってしまいます。

その役割を失っても、居場所は残るのか新しい仕事を見つける。誰かに必要とされる。地域や集まりで役を持つ。そこから関係が生まれ、居場所が育つこともあります。けれど、役割を果たせなくなるにつれて、関係まで薄れ、居場所まで失われていくのであれば、その居場所は、役割のある間だけのものだったのでしょうか。

居場所は、役割を失った後に、別の役割を見つけることで取り戻すものなのでしょうか。それとも、役割の有無にかかわらず、自然や土地、周囲の人との関係の中で育っていくものなのでしょうか。

居場所をめぐる三つの順序

役割と居場所の問題は、「自分らしさ」や人との関わり方にも表れます。三つを並べてみると、居場所をどこから考え直せばよいのかが見えやすくなります。

一|役割と居場所の順序起きやすい順序役割を持つ

認められる

居場所を得る
居場所を先に考えるとその人がそこにいることが受け止められる

居場所が育つ

働きが生まれる

役割として形になる
二|自分と関係の順序起きやすい順序自分らしさを見つける

自分に合う場所を探す
居場所を先に考えると関係の中に位置を持つ

そこから自分らしさが見えてくる
三|参加と受け入れの順序起きやすい順序参加し、役に立つ

仲間として受け入れられる
居場所を先に考えるとまず、その人がそこにいることが受け止められる

そこから参加や働きが生まれる
順序が変わると、居場所の意味も変わる先に役割や貢献を求め、その条件を満たした人だけが受け入れられるのであれば、役割を果たせなくなったときに、その人の位置まで失われやすくなります。先にその人が関係の中に位置を持てるなら、関わり方や働き方が変わっても、その人なりの働きや役割が生まれる余地が残ります。

「居場所は、役割より先にある」とは、役割や働きを否定することではありません。まず存在が受け止められ、関係が生まれ、その関係の中に居場所が育ち、そこから働きや役割が生まれていく。その順序で、人の居場所を考え直すということです。

なぜ「自分探し」だけでは、自分が見つからないのか

自分の内側には、あらかじめ完成した「本当の自分」がいて、それに合う仕事や土地、仲間を見つければ、自分らしく生きられる。「自分探し」は、そのようなものとして語られることがあります。けれど、自分に合う仕事を探し、好きな場所へ移り、新しい集まりに入っても、なぜか自分の位置が定まらないことがあります。だとすれば、自分は、最初から完成した姿で、内側のどこかに隠れているものではないのかもしれません。どの土地で暮らすか。誰と関わるか。何を受け継ぎ、何と向き合うか。どのような季節の巡りの中で暮らすか。そうした関係を重ねる中で、その人らしさや経験が少しずつ輪郭を持ち、自分の位置も見えてきます。

「本当の自分は、どこに隠れているのか」ではなく「私は、どのような関係の中でなら、無理なく自分の位置を持てるのか」

これは、自分の気持ちや意思を軽く見るということではありません。その人にしかない性質や経験は大切です。ただ、それらは一人の内側だけで意味が決まるのではなく、自然や土地、周囲の人との関係を通して、その人なりの関わり方として現れてきます。居場所は、自分探しの旅の終点で見つけるものとは限りません。自然や土地、周囲の人との関係の中で自分の位置を持てるとき、そこから自分らしさも少しずつ見えてくるのではないでしょうか。

2|土地のしくみから、居場所を読み直す

仕事や組織の中だけに自分の居場所を見いだそうとすると、AIによってこれまでの仕事や役割が変わったり、失われたりしたとき、自分の存在意義まで脅かされたように感じるかもしれません。けれど、日本各地の土地と暮らしの中で育まれてきたしくみをたどると、そこには、居場所を別の角度から考え直すための手がかりが残っています。

居場所は、心の中だけでつくるものではない居場所は、気持ちの持ち方だけで生まれるものではありません。自然や土地、周囲の人、季節の巡り、仕事や記憶、日々の暮らしとの関係の中に、その人なりの位置が生まれることで、少しずつ育ってくるものです。

もちろん、昔の共同体が、誰にとっても居心地のよい場所だったわけではありません。また、過去の暮らしへそのまま戻ればよいわけでもありません。それでも、神社や古民家、集落の配置、祭りや共同作業の記憶をたどると、そこには、水や道を守り、季節の仕事を分かち合い、祈りや祭り、弔いを通して、人と土地、人と人を結んできた暮らしが刻まれています。人が役割や評価だけではなく、土地や暮らしとの関係の中にも自分の位置を持ってきたことを示す手がかりが、そこに残っているのです。

人と人は、同じものに向き合うことで結ばれてきた人は、互いを理解し、評価し合うことだけでつながってきたのではありません。同じ水を守り、季節の仕事を行い、食事をつくり、祭りを支え、亡くなった人を弔う。共に向き合うものがあることで、人と人の関係も支えられてきました。

こうした視点から、村の履歴書では、各地の地形、水、道、集落、古民家、神社、祭りの配置と関係から、人の居場所が育つ土台となってきた土地のしくみを読み直しています。

長野|七二会・岩草山と水をよりどころに、役割だけではない居場所が育つ春日山と水をよりどころに、谷の暮らしと人のつながりを保ってきた集落。▶ この土地のしくみを読む
長野|七二会・論地二つの谷筋の間で、関係の中に居場所を保つ二つの谷筋の間で、地域とのつながりと集落のまとまりを併せて保ち、人の位置を結び直してきた土地。▶ この土地のしくみを読む
長野|南木曽役割が変わった後も、暮らしの居場所を守り直す道や橋を共に守り、街道の役割が変わった後も、町並みと暮らしの関係を守り直してきた土地。▶ この土地のしくみを読む
長野|飯島段丘上の町場と、段丘下の田切が、飯島を形づくる城・寺・陣屋が置かれた段丘上の町場と、段丘下の田切に受け継がれてきた集落の暮らしが、異なる位置から飯島の町を形づくってきた土地。▶ この土地のしくみを読む

▶ 長野|谷・峠・段丘から、土地のしくみを読む

3|AIとの対話は、心の拠り所にはなれても、居場所になれるのか

AIとの対話は、気持ちを受け止め、一時的に孤独をやわらげる「心の拠り所」になることがあります。では、それを居場所と呼べるのでしょうか。話を聞いてもらえることと、自然や土地、周囲の人との関係の中に自分の位置を持つことは、同じではありません。

AIとの会話で得られるもの気持ちが落ち着く自分の感覚が言葉になる否定されずに話せる孤独が一時的にやわらぐ
AIとの会話だけでは、自動的に生まれないもの誰かと同じ暮らしや課題に向き合うこと土地や暮らしの中に位置を持つこと同じものを守り、支え合うこと役割が変わっても関係が残ること
話を聞いてくれることと、関係の中に位置を持つことの違い人がAIに安心して話せる背景には、現実の人間関係の中で、役割や評価を気にせずに話したり、聞いてもらったりしにくいという事情もあります。AIは、言葉にならない気持ちを整理し、自分の立ち位置を確認する助けにはなります。けれど、AIと話すだけで、現実の暮らしの中に居場所が生まれるわけではありません。居場所は、人と関わり、土地や暮らしの中で過ごす時間を重ねることで、少しずつ育っていきます。

だから、AIに話しかける人を笑ったり、すぐに依存だと決めつけたりするべきではありません。大切なのは、その人がAIとの対話に何を求めているのかを見ながら、必要に応じて、現実の人や支援、土地や暮らしとの関係へつないでいくことです。

4|居場所を育ててきた関係を、現代へ結び直す

人の居場所は、人や土地との現実の関係の中で育ちます。では、日本の土地と暮らしの中で育まれてきた、人と土地、人と人との関係を、現代へどのように結び直せるのでしょうか。日本各地の暮らしには、人がまず受け止められ、関係の中に居場所が育つという順序を、現代に合う形で結び直すための手がかりが残っています。昔の地域には、困ったときに助け合い、暮らしを共に支えるしくみがありました。その一方で、周囲に合わせることを強く求める空気や、性別や年齢で役割を決める慣習、外から来た人を受け入れにくい面もありました。けれど、受け継ぎたいのは、昔の決まりや役割分担そのものではありません。水や道、季節の仕事、祭りを共に支える中で、人と土地、人と人との関係が結ばれ、その関係の中に居場所が育ってきたしくみです。個人の自由や多様な生き方を大切にしながら、こうした関係を現代の暮らしに合う形で結び直していく。それが、AI時代に人の居場所を考え直すということです。

現代へ結び直すときの要点

  • 水や道を守り、祭りなどの共通の営みを支える中で、人と人がゆるやかにつながること
  • 参加や貢献を「そこにいてよい条件」にせず、関係の中から働きや役割が生まれること
  • 年齢や体調、人生の段階に応じて、関わり方を変えられること
  • 役割を降りた後にも、人や土地との関係が残ること
  • 一つの会社、一つの家族、一つの集まりだけに、居場所のすべてを背負わせないこと

役割から離れたり、できることや人生の段階が変わったりしても、周囲の人や土地との関係を結び直し、その中に居場所を持てる。そのような社会や暮らしを、私たちはどのように育てていけるのでしょうか。

居場所は、役割より先にある。まず、その人がそこにいることが受け止められます。そこから自然や土地、周囲の人との関係が生まれ、その関係の中に居場所が育ち、やがてその人なりの働きや役割が生まれていきます。居場所とは、役割を持つことを条件に与えられるものではありません。自然や土地、周囲の人との関係の中に、その人が無理なくいられる位置があることです。

5|AI時代の問いを、五つの入口から読む

AI時代になって見えてきた問題は、仕事がなくなるかどうかだけではありません。制度、根づき、暮らし、つながり、縮む街という現代の暮らしのさまざまな場面で、役割や効率だけでは支えきれない人の居場所が揺らいでいます。

制度|AIを入れても、なぜ現場は楽にならないのか技術を入れても、制度と現場のあいだをつなぐ人や関係が弱ければ、確認や役割だけが増え、現場は安心して働ける場になりにくくなります。▶ 制度と現場の問いを読む
根づき|どこでも働ける時代に、人はどこへ根づくのか働く場所を選べる時代だからこそ、どこで暮らし、誰と関係を結び、どの土地の中に自分の位置を持てるのかが大切になります。▶ 人が根づく条件を読む
暮らし|働く意味が変わると、暮らしはどう変わるのかAIによって仕事が効率化されても、それだけで暮らしの中の居場所が生まれるわけではありません。日々をどこで過ごし、何を支え、誰と関わるのかが問われます。▶ ふつうの暮らしの問いを読む
つながり|AIと話せる時代に、人とのつながりはどう変わるのかAIとの会話が支えになっても、それだけで居場所が生まれるわけではありません。居場所は、人と関わり、同じものに向き合う時間の中で育ちます。▶ 人と人のつながりを読む
縮む街|AIは、人口減少地域の支えになるのか何を残し、何を終え、何を次の暮らしへ手渡すのか。人口が減る土地で居場所をどう結び直すのかは、効率化だけでは決められません。▶ 縮む街の問いを読む

さらに深く読む

人と土地の根本原理人間が文化という環境をつくり、異なる土地へ根づいてきた過程を読みます。▶ 根本原理を読む
用語と構造定義居場所、根づく、土地、文化という環境などの意味を確認できます。▶ 用語と構造定義を読む
土地のしくみ地形、水、道、集落、神社、祭りの配置から、土地が担ってきた働きを読みます。▶ 土地のしくみを読む
現代の問い制度、根づき、暮らし、つながり、縮む街という五つの入口から読みます。▶ 現代の問いを読む